◆◆とある公務員の備忘録◆◆

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農政とは

当初:2017.4月作成

更新:2020.3月

 

 

農政とはなんぞや。

どうあるべきか、というよりもそもそも言葉の意味が分からない。

と思ったのが事の発端。

 

(2017年に出した「なんだろう?」と疑問だけ書き連ねたエントリーを今回更新しました。

釣りタイトル状態で放置してすみません。

さすがに恥ずかしいので多少内容を追加しようと思います。)

 

 

 

私なりの「農政とは」

 

(1)一般名詞として

一般名詞として農業政策を省略した言葉ということで良いと思います。

 

少しだけ行政という業界寄りの意味としては、「農業政策を扱う部門・立場」という使い方もできます。

 

市区町村など基礎自治体と言われる役所には、福祉からごみ問題、経済振興など本当に多種多様な業務があります。

そのため、どの政策を扱う部署なのかによって立場が変わり、物の考え方が変わります。

こんな時には「農政の立場としては」「緑政としては」なんて言い方をして、どの立場から話をしているか明確にするために使ったりします。

※緑政:緑地保全行政とか、環境保護政策とかそんな感じの意味です。

緑政からしたら、農地が荒れていても緑はあるので困らないのでしょうが、農政からしたら農作物が栽培されていないので農業振興上、農地保全上は困るわけです。

 

(2)専門用語として

専門用語と言い切るのは言い過ぎかも知れませんが、農業新聞や農林水産省の人が「農政」というときにはある程度、特定の意味を込めているように思います。

簡単に言うと、日本人の食糧を安定的に確保するための政策、という意味を含んでいるものと思います。

かつて大きかったのは、食糧管理制度や減反政策で、現代においては、食料自給率や「産業政策と地域政策」という言葉がキーワードになってくるかと思います。

 

(ⅰ)戦後体制における農政

分かりやすいのが「食糧管理制度」です。

これは1942年に制定された食糧管理法に基づく制度で、戦時中に米、麦を安定確保するために創設されたものです。

戦前までは米も市場原理で取引が行われていましたが、食糧管理制度で、米麦の価格を安定させるため、国が流通に介入するようになります。

Wikipediaによれば、

「生産者は自家保有量以外を公定価格で供出し、政府は米穀配給通帳に基づき消費者へと配給する。加工・管理は食糧営団が行う。これ以外の流通は一切認められず刑罰規定もあった」

 

そもそも経済活動を公共部門が統制するなんて無理なんじゃないの?と思ってしまいますがいかがでしょうか。社会主義政策や共産制の限界ではないでしょうか。

確かに、流通を統制することで、米を買い占めて持っている人が価格を不当に引き上げる、ということを防げるかも知れません。

しかし、本来なら、放っておいても、需要と供給のバランスという神の見えざる手によって価格がダイナミックに変わるべきところ、公定価格として人の手を加え大金をつぎ込んで実施するため、経済合理性のない政策です。

と思いますが、この制度をあまり詳しく知らないので、制度の良くないところも指摘ができませんので、この辺にしておきます。

 

この法律は1995年に廃止され、役割が食糧法に引き継がれますが、戦中から続いた食糧管理制度が一旦の終焉を迎えます。

 

 

減反」も農政という言葉に含まれることが多いと感じる政策です。

戦後の食糧難を乗り越え、昭和40年代には米の生産量が増えていきました。食糧管理制度による農家からの買取り価格は高いままに買取り量が増え、一方で、経済的に貧しい家庭への配慮で米の売価は安く抑えられていました。つまりは逆ザヤとなり、農家から買い取るための支出が、消費者に売り渡すことによる収入を上回ってしまうため、食糧管理特別会計は赤字に陥ります。

ここで、米の生産量を増やさないようにするため、1970年から減反政策が導入されます。

この減反政策は、2018年に、生産数量目標の「配分を廃止」することで、ようやく終わりました。

 

(ⅱ)現代の農政

現代の農政におけるキーワードはまず、①食料自給率、②産業政策と地域政策、になるかと思います。

①食料自給率

戦中・戦後の食糧管理制度は終わりを迎えましたが、現代においても日本人に必要な食糧を日本国内で確保できるかどうかはとても重要なことです。そのため、食料自給率を捉えて向上させることが国の役割としては重要になります。

このことから、食料自給率を向上させることが農林水産省の大きな政策目標となります。

食料自給率は、日本人の食生活の欧米化により下がる一方です。

日本人が弥生時代から生産技術を高めてきた米や、あるいは野菜を中心とした食生活であれば日本にも供給力が備わっていますが、小麦や油脂が多い食生活となると日本は供給力に劣ります。

また、肉についても、家畜の食べ物である飼料が海外で効率的に大量生産されたものを原材料としているために、肉の多い生活になればなるほど自給率は下がります。

平時においては、多くの日本人に、食料自給率向上のために食生活を変えましょう!と言ったって無理です。食料自給率のために毎日の食事を組み立てる人は多くないはずです。肉を焼くいい匂いがしてきたら肉が食べたくなるのです。

 

食料自給率を高めるためには、最低限、生産基盤がないといけません。

そのため、農林水産省としては生産基盤である「農地」「農家」を減らさないような政策を打つことになります。

例えば、農業経営基盤強化促進法に基づく制度です。農地を流動化して貸しやすくする利用権設定等促進事業だったり、新規就農者を認定して、別の制度で給付金を出したり、というようなことをしています。

農業振興地域の整備に関する法律(略して農振法)に基づく農業振興地域制度も農地転用を抑えて農業振興策の策定を促すものなので、同じような方向性の制度だと思います。

 

②産業政策と地域政策

日本農業新聞を読んでいると「産業政策と地域政策は車の両輪」という表現がよく出てきます。

明治大学の小田切徳美先生によると 、2005年の「経営所得安定対策大綱」から使われ始めた言葉のようです。

※参照:全国市長会HPにおける小田切教授のコラム

https://www.zck.or.jp/site/column-article/19347.html

 

産業政策というと、要は農業を強い産業にするということで、規模拡大による価格競争力の強化、農産物の高付加価値化と輸出強化なんかがこれに当たります。ところが、平たんでまとまった農地が少ない日本ではいくら規模拡大といっても海外には勝てません。また、高付加価値や輸出強化というと、ボリュームゾーンである日本人の日常食が置き去りになってしまいます。企業並みにコスト意識やマーケットインの感覚が高い農業者を増やすことは必要かと思いますが、上記のような産業政策に偏って展開される現安倍政権の農業政策はおのずと限界を迎えるものと思います。

 

地域政策は定義づけが難しいなと思いますが、農水省の政策を見ると現状の地域政策は農村政策に集約されており、多面的機能直接支払交付金中山間地域直接支払交付金の制度に代表されています。ところが実際には、現状の直接支払制度では要件が厳しすぎてなかなか支援が行き届きません。世界においても食料の8割は小規模・家族農業で生産されていると言われています(※)。中山間地においては1haどころか1反にも及ばない農地がたくさんあります。そのような地域で農業を継続するため、地域政策はもっと研究され拡大されるべきかと思います。

 

※参照:小規模・家族農業ネットワーク・ジャパンHP

https://www.sffnj.net/

 

これだけでなく、「産業政策」「地域政策」という2者択一に囚われてしまっていることも農政がうまく回らない要因になっているように思います。農業を継続するために必要なことは、規模拡大による価格競争力の強化だけではありません。人力による小規模な農業でも、消費者に効率よく農産物が届けられて、おいしい農産物であることが伝わり買ってもらえれば、ある程度成り立ちます。「産業政策」「地域政策」のどちらとも言えないような流通支援、個別農家の取り組みであっても対象とする機械化支援など、小さい政策ももっと実施してほしいと思います。

 

はてさて、当初のエントリーよりも5倍近い文字数になってしまいましたが、全然うまく語れません。私の能力の限界もありますが、農政の奥が深すぎます。

個別の政策でも語るべきところが多いので、農政全体として意見しようとすると中途半端になってしまいます。

まずは、「農政」という世界観が漠然と描けるになればと整理しました。

長文失礼しました。